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2004.08.26 Thursday
オランダ・フランドル絵画2
オランダ・フランドル展のつづき。 西洋絵画人気投票(ランキング)があったら、まちがいなくトップ5のなかに入るだろうと思われるフェルメールの<絵画芸術>、結局その絵を頂点にウィーン美術史美術館の収蔵品、その他の”絵画芸術”を丹念に観ることになった。美術史的にいえばオランダ17世紀とは、東インド会社に代表される海洋貿易によって勃興した新興市民階級のニーズに沿って絵画のジャンルが細分化され(風景専門、花専門、風俗専門というように)、それぞれがしのぎを削り、工芸としての絵画がおそるべき質の高さを獲得した時代であった。つまりそれが、オランダ絵画の黄金時代として、同時代の諸国美術へ、また後世へと多大な影響を及ぼすことになる。 日本の浮世絵が印象派の絵画ひいては西欧近代絵画に与えた影響は計り知れないが、その浮世絵はといえば、オランダ絵画を通して西欧絵画の影響を被っている。江戸時代にどうした酔狂でか、”バンダイク”を名乗る絵師がいたというから、驚きである。ちなみにバンダイク(ヴァンダイク)は茶色のなまえ(ヴァンダイクブラウン)としてたいていの絵描きにはいまも親しいはず、フランドルの大巨匠ルーベンスの一番弟子で、当時美術後進国のイギリスに王室画家として喚ばれ、その後のイギリス絵画の動向を決定づける。また江戸のぶっとび遊び人、平賀源内が黒子として係わる「秋田蘭画」の世界も興味深い。「蘭画」すなわち「オランダ絵画」。 かようにして17世紀オランダ美術と江戸日本の美術の関係は深い。ともに「世俗」のレベルでの絵画の隆盛という点でつながりあう面も大きい。 というわけで、口悪くいえば海洋ルートによる富の収奪によって栄えた新興国、オランダの金満ぶりとプロテスタンティズム(勤勉)によって支えられた絵画の技術的な水準の高さは空恐ろしいものがあり、わけてもネーデルランド=オランダ+フランドルということでいえば、そのフランドルこそが油彩画の発祥の地であり、そのリアリスティックな対象描写の執念は、ほとんどミクロン単位の精緻さに及ぶ。ヘラルト・ダウの「窓辺の老女」というちいさな絵ははまさにその精緻の見本のようであった。老婆の皺の表現の見事さ。 一方、ライスダールの水平線を低くとった、ほとんど「空」が主題といえる風景画も、変哲もないのだが、見飽きない絵だった。茫洋とした雲模様に大半を占められた画面の左端ぎりぎりの枯れ木に挿す光の心憎い表現。 ダウしかり、ライスダールもそれまでとくに意識したことのない画家だったのだが、あとからよくよく調べてみると、「風景画家」としてのライスダールの存在、後世の風景画に与えた影響は美術史的に非常に大きいのだった。とくに英国風景画への影響は見逃せないものがある。 ほかにも興味深い絵がいくつかあったのだけれど、きりがないのでやめておく。 強烈だったのは、<花籠>と題された花卉画の飴細工のごときチューリップのたったいま描き終えたかと思わせるほどの赤の鮮やかさ、テニールスという画家の手になる、猿の床屋と煙草呑みのこれまた小さな絵の、猿たちの表情の異様さ。オランダ絵画は「やばい」。 ただ言えることは工芸的な高水準を誇る絵画群にあって、フェルメールの空間意識というのは、同時代からはあまりにも突出して「近代的」だったというのは、痛いほどよくわかった。埋もれたまま19世紀に再発見されたというのも頷ける。 そして、不思議なのはそのフェルメールが遺したものを19世紀以降にいったい誰が継いでいるのだろう?ということだ。いまふいに思ったことで、答えはすぐに出そうもないが、考えてみる価値はありそうだ。じつのところフェルメールの影響というのは、絵画を飛び越して、写真や映画、映像文化のほうに行ってしまったのではないだろうかという気もする。 コメント
>”江戸時代にバンダイクを名乗る絵師がいた”
ですが、手持ちの資料によるものではなく、あいにくリソースが判然としません。図書館で借りた本か、美術館の図書室でみつけたか、、。浮世絵の歴史の本だったか、あるいは応挙に関する本だったかも知れません。さしつかえなかったら、もし判った時点で、メールでお教えします。 あとご存じかも知れませんが、「栄光のオランダ・フランドル絵画展」のカタログの最後のほうに「ルーベンスと唐獅子」という論考が載っていて、これもなかなかに興味深いです。
| d | 2005/06/02 5:10 PM |
とても興味深い内容でした。
とりわけ、”江戸時代にバンダイクを名乗る絵師がいた”、この情報に興味をもちました。もしよろしければ、これに関する資料を教えていただけないでしょうか?
| ui takako | 2005/06/01 5:28 AM |
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